『呼吸する家』
金堀 一郎(かねほりいちろう)
安田女子大学 教授、 工学博士、 一級建築士。

1947年広島県三原市生まれ、広島大学工学研究科社会環境システム専攻の博士課程終了。
1987年株式会社住宅デザイン研究所を設立し代表取締役就任、2006年から現職。
著書に「長寿健康住宅」、「呼吸する家」、「いい家はこうつくる」など。
早くからエコロジー住宅を提唱し、健康を創る住宅の研究とエコロジー住宅やエコクリニックなどの設計実践で知られる。居住環境と空気中のイオン密度の関係に注目し、マイナスイオン優位環境をつくる機能性建築材料の研究に取組んでいる。

◆シリーズ19   住宅団地の空気イオン密度
■ データの蓄積による比較が大事
住宅室内の環境評価法として空気イオン密度評価を行なうためには、住宅周辺の空気イオン密度との比較も重要。また自然環境の空気イオン密度の平均的な値のデータを蓄積すれば、住宅室内の空気イオン密度の理想値を見出す重要なデータとなると考えている。

今回は、中国地方有数の郊外型住宅団地のメッカとみなされる広島郊外安古市地区の住宅団地群の主要な住宅団地の空気イオン密度を測定した。条件を揃えるためそれぞれの団地主要道路の歩道上付近で測定し、また気候的条件を揃えるため、全てを同日の午後という時間帯に絞り短時間内の測定を実施した。

■ 測定結果は
安古市地区の住宅団地群は東西軸に流れる安川を挟んで両側の山裾丘陵地に、住宅団地群があたかも葡萄の房のように形成している。今回は安川北側南斜面の大規模な5住宅団地を選び、それぞれの住宅団地を測定時間5分間で空気イオン密度を測定し、その平均値を表にした。
 測定結果は、5団地の空気イオン密度の平均値はプラスイオン165個/cc、マイナスイオン283個/ccで、マイナスイオンが117個/cc優勢であった。

■ 結果からみると
安古市地区を代表する大規模住宅団地の空気イオン密度平均値が、マイナスイオンが優位化環境であったのは、これらの団地がかつて山裾丘陵地の山肌を削り宅地造成されたものであり、宅地造成前の山林の土質は風化花崗岩質で、その山を削り切り土で宅地を形成していること。またこれらの住宅団地は緑豊かな山林が隣接しており、安古市地域全体を鳥瞰的に見ると、山肌を削られた住宅団地群の総面積より何倍も多い山林など緑地の多い地域ということが主な要因と考えられる。

                                                  
                                                              測定風景
◆シリーズ18    なぜ今岩盤浴
 大学教育に携わって10数年になるが、この10年間に徐々に学生の体力や精神力が弱くなっているように思う。講義を欠席した学生の欠席届の約9割の理由が身体の不調となっていた。90分間の講義に集中力が保てない学生も多く、講義中の学生たちの姿勢も悪い。ゼミの学生と健康について論議すると、首筋が凝る、腰が痛いので整体やマッサージを受けたいという学生が多いのには驚いた。

 若者たちが健康を失いつつある理由は何であろうか?産業革命以降、産業の発展つまり化石燃料の消費量に比例して地球が病んできたが、地球上で暮らすわれわれ人間も経済が発展し経済的に豊かで、より便利な暮らしになるに比例して病んできているのではあるまいか。車社会となり歩かなくなりだんだんと足腰は弱くなっている。戦後、家電品の普及により汗をかく家事労働から解放されたこととエアコンの普及により暮らしの中で汗をかく場面を失っている。また農業の発展により大地のミネラルを吸収していない野菜や食品添加物にまみれた加工食品を食べるようになった食生活にも深い関係があると考えられる。

 今日の岩盤浴ブームは、こうした若い世代の本能的な発汗による健康回復ニーズかもしれない。五味クリニックの五味恒明院長は著書の中で「汗をかくことを避けた生活スタイルが、貴重な汗腺を退化させ、その結果として人間そのものを退化させている。汗をかかない生活が、汗をかけない人間をつくっている」と指摘している。また「汗腺(能動汗腺)の数は、若い人ほど減っている。学に気温と一緒に体温まで上がる変温人間が増えている」ことも指摘し汗をかけないと病気の引き金になることを警鐘している。

 若い女性を中心に大ブームを起こした岩盤浴文化は、週刊誌による少し誇張ぎみな雑菌繁殖の指摘により冷や水を浴びせられ一部に岩盤浴離れも起こっているようだが、ほかの健康ブームと異なり、根源的なニーズと奥深さと広がりを持った時代的要請による新しい文化と解釈できよう。こうした時代背景からこれからは、健康の回復・創造の場が大切であり、住宅における健康づくりのシチュエーションが求められると思われ、住宅の浴室を家庭岩盤浴にする新しい浴室文化が定着してゆくものと考えている。

◆シリーズ17    究極のイオン壁
 住まいの中で健康が増進できればこんな幸せなことはありません。マイナスイオンが優位な室内環境が健康に良いことは定説になりつつあります。昨今、マイナスイオンを造ることを謳った仕上げ材も建材メーカーから幾つも商品化されていま すが、いまひとつ納得ができない。その理由はマイナスイオンの発生はいろいろな方法で可能です。たとえば、微量の放射線を出す鉱石の微細粉をプラスチックなど建材に練りこめば簡単にマイナスイオン多く発生させることができるからです。
そこで、健康に多面的にしかも確実に良いもので、マイナスイオン優位環境を創る建築材料の開発に挑戦してみました。それが「究極のイオン壁」です。
 確実に健康に良いものでマイナスイオンを創る素材として、古くから漢方薬に使われている「中華麦飯石」に注目し、内モンゴルの中華麦飯石の鉱山を訪ね本物の「中華麦飯石」を砂状にして持ち帰り実験を試みたのです。なぜ内モンゴルの鉱山まで訪ねたのかといえば、中国政府が薬石と認定しているのが「中華麦飯石」と聞いていたからで、麦飯石の産地は中国に広く分布し、北京麦飯石、天津麦飯石、吉林麦飯石、阜新麦飯石、そして内モンゴルの中華麦飯石などに産出し、韓国や日本(岐阜県の白川町)でも採れるが産出地によって成分(薬効)が異なります。
 その「中華麦飯石」をある一定量をアロエの化石から造られた塗り壁材に練り込み、パネルに塗り、そのパネルで小空間を造り、最も信頼性の高いフィーサー社の「エアーイオンカウンタ FIC-2000」を用い空気イオン測定を試みて、予測どおりいいデータを得たのです。これが「究極のイオン壁」で、私が知る限り(これまで調べた範囲内)では、健康に多面的にしかも確実に良いという観点でこれに勝るマイナスイオン建材はないと思っています。
 2006年11月20日に「空気中のイオン密度測定方法」がJIS規格になり、室内空気環境の評価方法もかつての健康にマイナス要因の少なさを実証するVOC測定評価から、健康にプラス因子(マイナスイオン)の評価の変わってゆくものと予測できるでしょう。
 <9601工作室内で中華麦飯石砂混入塗り壁6面体内>
マイナスイオン優位のデータが出ています。
◆シリーズ16   中国の住宅産業化事情
 いま、中国本土の集合住宅建設ラッシュはわれわれの想像を遥かに超えている。建設ラッシュばかりではなく、われわれがこれまでの情報からイメージしている中国の住宅と大きく異なっているに違いない。
 私は、1985年に上海人民政府手工芸局の招きで、インテリア講座の2週間の講義を勤め以来、広島県が経済友好都市を結んだ四川省にもデザイン講座に2週間出向くなど、この20年来、中国の上海や北京、四川省などの都市を幾度か訪ねた経験を持ち合わせており、中国の時代的変化や住宅事情には割合詳しい一人と自負しているが、住宅事情の進展とめざましい経済発展には畏敬の念を抱いている。わが国は1970年前後から地価高騰が始まり、住宅の工業化推進策とともに戸建住宅を軸とした住宅産業化が推進してきた経緯がある。一方、中国の住宅事情は土地が国からの借地で集合住宅のみの住宅産業化が始まりつつ
あることが特徴的だ。日本は戸建住宅中心  中国は集合住宅のマンションバブルで土地代がないだけ建設ラッシュに勢いがあるように思う。

 この秋、内モンゴル自治区の通遼市を訪ね、建設さなかの分譲マンションを視察し、販売事務所も訪ねた。若いお洒落な女性が対応してくれ、わが国の分譲マンション販売事務所と変わらない。大きく異なるのはマンション住戸のスケルトン(躯体)販売でモデルルームはなく、建設中の躯体のみの住戸を案内してくれる。購入を検討したいと住戸を決めるとスケルトン価格、経費、インフィル予算案など詳しい見積をしてくれた。


 その見積概要は、107.82u(32.61坪)の住戸で、スケルトン:22万8000元(342万円)、諸費用(電気水道引込料、インフィル工事の保証金、手数料など):4854元(72,800円)、合計23万2854元(350万円)であった。これにインフィル(内装)工事代が12万元(180万円)程度必要という。
 108uのマンションがスケルトンとインフィル併せて、530万円程度で購入できることになる。東京のマンション価格で考えると1割あまりお金で購入できることになる。数年で5倍くらいに高騰するのではなかろうか?大連には20〜30階建の高級マンション群が各地で幾つも建設されていた。まさにマンションバブルの様相。

◆シリーズ15   中華麦飯石を訪ねて
 麦飯石(ばくはんせき)の産地は中国に広く分布し、北京麦飯石、天津麦飯石、吉林麦飯石、阜新麦飯石、そして内モンゴルの中華麦飯石などに産出し、韓国や日本の岐阜県の飛騨川の上流益田川沿いの白川町でも少し採れると聞いている。
麦飯石は割肌が麦飯に似ていたのでこの名が付いたようだが、石英斑岩に属する花崗岩の一種で、人体に必要なカルシウム、マグネシウム、鉄、ナトリウム、カリウム、など40種以上のミネラルと希土類含んでおり健康石として注目されている。しかし麦飯石のその成分の含有率は産地により微妙に違っている。
 漢方薬の薬石としての歴史は古く、16世紀(明の時代)漢方薬学書「本草網目」李事珍(1518 〜1593年)著に皮膚病が治療できると紹介され、薬効のある石として珍重されているのは「中華麦飯石」と聞き、その鉱山を内モンゴル自治区に訪ねた。
 大連から北京に入り、北京から内モンゴル自治区で空港のある通遼に向かった。北京空港で小さな飛行機に夕方搭乗したが一向に飛び立たない。搭乗から2時間後飛び立ち通遼空港に到着したのは午後10時を回っていた。
空港に着くと薄暗い滑走路にタラップを数人の手押しで飛行機に運んでくる光景は異国の僻地に来た実感と不安が過ぎる。
通遼市(人口30万人)で唯一の四ツ星ホテルに着くが、遅いためレストランはクローズド。翌早朝タクシーをチャーターして、通訳と2人で一路中華麦飯石の鉱山のある町(奈曼旗)へと向かう。信号もなく、どこまでも平原が続く、所々に沙漠もあり、いくつもの町や村を経て、中華麦飯石の町にたどり着いたのはお昼をまわっていた。
 その町から鉱山のある村(白音昌)まで数十キロという。舗装のない凸凹道を腹を擦りながらタクシーで走り、広くない草原の道を走って初めて美しいなだらかな山並(平頂山)が見えてきたときは感動を覚えた。しかし、中華麦飯石の鉱山にたどり着いたが、このタクシーで無事ホテルまで帰れるであろうかまた不安が過ぎる。が幸運の女神がついていた。砕石場で出遭った大柄の無愛想な人は、中華麦飯石の採掘権を持つ社長であった。中華麦飯石の鉱区、採掘現場、現場荒加工工場などを案内していただき、町の本社までジープで送ってもらえ、本社事務所や工場、研究所などを御案内頂いた。
 中華麦飯石には微量の酸化チタンなども含まれており、ミネラル分の溶出ばかりでなく、化学反応を促進し有害物質の分解なども期待できる。健康宝石として最も有望な機能性石材と考えている。
◆シリーズ14  楊貴妃の風呂
 中国唐代の皇妃、楊貴妃の風呂に使われていたという玉石の鉱山を訪ねる目的で、中国の大連に飛んだ。広島空港から大連空港まで2時間の飛行、広島から札幌ぐらいであろうか、でも、1時間の時差があり、入管手続きを終えると異国の地に立つ実感が湧く。
 大連市は、人口500万人、ダウンタウンに入ると高層ビルが林立し、郊外には高層住宅群の建設ラッシュの最中で、活力あふれる勢いの感じられる都市であった。2010年に1000万人都市を目指すという。
翌朝6時過ぎに、ダウンタウンのホテルからタクシーをチャーターし通訳と2人で、玉石の鉱山を目指してひた走る。大連からの主要都市への高速道路の整備には脱帽であった。郊外の経済特区を過ぎても、地平線に向けて一直線に永遠に続く高速道には前方に走る車が見えないほどカラガラで、対向車すら出会うのは疎ら。数珠繋ぎの我が国の高速道からは想像を絶する道路事情であった。このような思い切った道路インフラ整備が出来るのは、国土は総て国有地である中国ならでの離れ技で、市場開放策と供に経済と都市の急発展をする理由を納得した。
 高速道を4時間あまり走っても、パーキングエリアは一つもない。お昼前に玉石市場の町 遼寧省鞍山市にたどり着いたが、3星以上ホテルもなく、昼食をとるレストラン探しに一苦労。
午後、事前に調べ、アポイントとっていた鞍山市から2〜30km奥地の玉石の加工工場を訪ね、無愛想な工場主に案内をしていただいた。透明感のある薄いグリーンの玉石タイルに何かも魔力を感じた。玉石の裏から光を放射させる医療器具の展示もあり、韓国に輸出用の玉石タイルを張った岩盤浴ベットも、健康づくりへの何かの効果があるから製品化されているのだと思う。また、殺風景な社長室(工場主室)でガラスの水筒に玉石を入れてお茶を飲んでいる工場主を見て、この玉石には何かがあると確信を深めた。
 加工工場が点在する地域から、玉石の鉱山に向けて狭い田舎道を2時間あまりさらに奥地に入り、鉱山の発掘権を持っているという事業主を訪ねた。日本からこちらの資料を事前に送りアポイントとっていたので、若い鉱山事業家は歓迎してくれた。鉱山事務所からジープで鉱山の現場を案内してくれたころはもう日暮れであった。
大連から往復600kmあまりの奥地に玉石の鉱山を訪ねた日本人は初めてであろうが、源流を確認しルートをつくり、本物の原石と情報を持ち帰れた意義は大きいと思っている。
 楊貴妃の風呂を住宅の浴室に再現する夢が実現できる日は遠くないと考えている。

◆シリーズ13  エコロジカルな家づくり
 十数年昔の話であるが、毎年、アメリカ最大の住宅ショーとして名高い全米ホームビルダーショーを視察していた。その翌年には我国の各都市の住宅総合展示場に米国ホームビルダ−ショーのモデル住宅の外観デザインをそっくり真似たコピーモデル住宅が大手住宅メーカーによって建てられていた。大手住宅メーカーばかりではない。地方の住宅団地の建売り住宅までがアメリカの分譲地で見かけた外観デザインのコピー版が立ち並んでいた。  第二次世界大戦以降、住宅だけでなく多くの産業がアメリカをモデルに経済発展してきた事実がある。商業や工業は先進事例を学びそれを実践して豊かな経済を築いてきた。しかし住宅は土地に定着するもので、気候や風土の違う外国の物まねでは弊害が大きい。
 風土というものは風が大地に吹くところ生まれる独自の気候や精神文化的環境で、その地域に相応しい建物(住宅)が立ち並び長い歴史を経て景観を形成してきた。20世紀に失った大切なものの一つに地域の景観(住文化)がある。ある外国人が「日本を旅行するなら、新幹線の走っていない裏日本を巡るのがよい」と話していた。その訳は「裏日本には日本の固有の住文化が残っており地域景観の美しい」という。
 これまでの家づくりは外観が地域の景観に与える影響ヘの配慮が欠けていたことを反省しなければならない。これからはエコロジカルな家づくりの思想が大切だと思う。エコのコンセプトは自己と自己以外の総てとの好ましい関係づくりだ。建物を造るときには、周りの環境(風土)との調和が大切な要素となってくる。住宅メーカーの新商品や若き建築士が好んで造る奇抜なデザインの建物は、プラスチックと同じで当初は新鮮感があるが風化も劣化も早い。長い歴史と伝承の智恵で培われた伝統建築を現代の技術で再生させる家づくりの思想『温故知新』が大切と思う。
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